Holistic Marathon

Photo by Chadwick Tyler

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Original Article in English by District Vision. (C) All Rights Reserved by District Vision.  Photo by Chadwick Tyler. Translated by M.Suzuki, Edited by K. from mokusei publishers inc.

LAのブランドDistrict Visionとお届けするランニングについてのリサーチ・シリーズの第3弾はこちら、「Holictic Running」です。インタビュアー、ライターのジャシエル・マルチネスが、ランナーであるヘルマン・シルヴァと対話します。

シルヴァは、1968年生まれのメキシコ人マラソン・ランナーで、1994年と1995年のニューヨーク・シティー・マラソンで優勝しています。1992年のバルセロナ五輪、1996年のアトランタ五輪ではメキシコ代表選手としてフルマラソンを走っています。もしかしたら、有森裕子さんや谷口浩美さんのことも知っているかもしれませんね。

実際に走ることで身につくこととは? 走ることが個人への影響を越えてコミュニティー全体に関係してくることはどういうことか? ヘルマン・シルヴァはストレートでシンプルな考えを語ります。

リサーチ・シリーズ、第1弾と、第2弾のメッセージと共通の内容もあるような気もしています。今までの記事に比べて短めで読みやすいと思います。ぜひお楽しみください。

記:中の人

ホリスティックなマラソントレーニング。ヘルマン・シルヴァとジャシエル・マルチネスの対話

Holistic Marathon

ジャシエル: ヘルマン、ずっとランニングをしていて、もしや生まれたときから走っているんじゃないかという感じですよね?ランニングを始めたきっかけは?

ヘルマン:ランニングをするために生まれてきたと本気で信じていますよ。それくらいランニングが大好きです! 走り始めてからいままで、ずっと続けています。身体的に良い感じでいられるのもそうですが、精神的にもスピリチュアルな面でもランニングは良い活動だと思っています。私にとってランニングは、友達と時間を過ごしたり、自然の中に身を置いたりして良い時間を過ごすの同じ感覚で、一種の滋養だと思っています。嫌々やることは決してなく、いつも楽しく走っていますね。

最近はトレーニングというより、シンプルにただ走りに行く感じですね。レースに備えていたときのマインドとはまた違います。いまはウェアを着て、ハイドレーションパックを付けて、エナジーバーとお金を少しザックに入れて、自分が行けるところまで走り続けます。ここで終わりと決めたら、電車なのかタクシーなのか、誰かに迎えにきてもらうのか、帰りの手段は考えずに、とりあえずどこかに食べに行きます。

トレーニング、休息、栄養補給。

ジャシエル:長らくマラソンランナーとしてたくさんのご経験をされれ、いまはコーチであり指導者として活躍されていますが、初心者がやってしまいがちな失敗を防ぐ良い方法はありますか? それともマラソンは、続けることで学びを得ていくものなのでしょうか?

ヘルマン: 私の経験をもとに指導やアドバイスはできますが、どんなランナーも失敗から学んで自分なりに成長していくべきだと思います。

ちょっと前に女性のランナーから、マラソンを走るときのペースをどうコントロールしたらいいのかという質問を受けました。そのとき私は、「全力で何本も中距離を走るレペティション・トレーニングをしてみたり、長距離を走ってみたり、とにかくやってみるしかない。それで、思いがけず自分の適正ペースより速いスピードで走ってしまうような経験をしないと、適切なペースや走りかたはわからないと思いますよ。」と伝えました。

たとえばレペティション・トレーニングだと、最初の数本だけ突っ込んですごいスピードで走ってしまって、あとの何本かは力尽きてしまうような経験をしたとしますよね。そうすると、最初のペースは速すぎたわけですから、次からは全体的に同じペースに走れるように最初はもっと遅くはじめて適正なペースになるまであげていくようなことをやるようになりますよね?

こんな風に説明は何度でもできますが…ランナーは自分で実際にやってみて体験しないとわからないものなのですよ。ランナーとして生きていく上では、失敗とはごく自然なプロセスで、それを経験して学んでいくことでマラソンランナーとしての成長が望めるんです。トレーニング、休息、栄養補給のすべてに学びは潜んでいます。

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マインドの力

ジャシエル:ただ走ることに重点を置く昔のマラソントレーニングのアプローチに比べて、からだ全体を使いながら、マインド、つまり気持ちの面も探っていくような現代のアプローチはやはり新鮮なものだと思いますか?

ヘルマン:このアプローチは以前からあったと思います。気持ちの面は、走ることにおいて本当に大きな役割を担っています。でも気持ちの面でもうまくやっていくには、まず学ぶための意欲が必要です。失敗しても大丈夫ですよ、学ぼうとオープンな心持ちでいれば、失敗からよく学び、それを糧にできますしね。私も初めてロッテルダム・マラソンを走ったときは、40キロで折れました。2回目は、ちゃんと走れるだろうかと恐怖と隣り合わせで走りましたよ。ランナーは、つねにそんな恐怖とやりきりたいという気持ちの両方がない混ぜになっているものです。どれだけ完璧にトレーニングができていても、やはりレースの当日には何が起こるかわからないからです。

こういうどっちつかずなことを常に考えながら走るわけですが、走り切れるか、止まってしまうかは、自分がどう考えるか次第ですね。やる気があるだけで、最高の走りができたりしますしね。ランナーとしての成長に寄与する要素は様々ですが、1000メートルを15本走るセッションをやりきるにせよ、マラソンを走り切るにせよ、最終的には気持ちをどうもっていくか次第だと思います。

現代のトレーニングメソッド

ジャシエル:トレーニング方法は昔に比べてずいぶん変わりましたか?それとも90年代の方法論とそこまで変わっていませんか? あるいは、2030年のワークアウトは、どのように進化していると思いますか?

ヘルマン:確実に変わってきていると思います。ハイパフォーマンスを求めるランナーにとっても、ファンランをしているランナーにとっても。どちらかと言えば、トレーニングの流れは、強度を高くして負荷をかけたり、スピード練習に重きを置くようになりましたね。

でも一番大きいのはテクノロジー面だと思います。シューズもウェアもそうですが、何よりも心拍数とペースを測れるガジェットの誕生が大きいと思います。以前はストップウォッチと感覚を頼りにペースを測ってましたが、いまやテクノロジーを頼りにペース、心拍数、ストライド、それから乳酸値まで測定できますし、走ったルートをソーシャルメディアにも共有できますからね。とは言っても、ペースをコントロールして、適正なペースを自分のからだできちんと感じることができるようになるという基本的なところを見失っちゃいけません。

2030年にランニングはどのような進化を遂げているか。きっといまよりも少ないトレーニングで、パフォーマンスは出すことができるようにはなっているでしょう。それでもトレーニングプランを立てて練習をし続け、万全を期す必要があると思います。ランニングというのは、マラソンを一回走ればいいというものではなく、ランニングライフをどう続けていくかということが大切だからです。そう考えたときに、気を配らなきゃいけないランナー最大の敵といえば、怪我ですよね。治すのではなく、予防する。これが掟です。

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人と人とをつなぐランニング

ジャシエル:マラソンは、ほかのスポーツよりもみんなの一体感を生むスポーツだと思いますか?

ヘルマン: そう思いますね。とくにマラソンのレースに向けてトレーニングしている時なんかは一緒に頑張ってるなと思ったりしてコミュニティ感が生まれますし、お互いやってることに共感しますよね。他のランナーが思ってることを感じ取れたりね。誰かと走ると、ひとりで走るよりも多くのものが得られます。たとえばサポートしてくれる仲間ができたり、切磋琢磨する相手ができたりしますからね。そうしているうちに、友情も深まります。私にも、親友であると同時に、トラックでは良きライバルでもあるランナーたちがたくさんいます。

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文化と共存

ジャシエル:マラソン大会がある日というのは、なぜその都市にとって特別な日になるのでしょうかね?

ヘルマン:大都市には必ず独自のマラソン大会がありますよね。そしてスポーツに燃えるその街の住民たちは、レース運営や手伝いなど、何かしらの形で大会に参戦します。そうしてマラソン大会は、その都市の特徴—どんな文化があって、人々がどう共存して、お互いをどう尊重しているのか—を世界に知ってもらう機会になっていきます。

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社会的価値

ジャシエル:良いコミュニティを作り上げるために、何かランニングというスポーツが与えてくれたことはありますか?あなたがランニングを教えているコミュニティに何かしらの変化が生まれたことはありますか?

ヘルマン: ランニングをしていると、そのコミュニティは他の誰かのこと、つまり社会課題に目を向けるようになっていきますね。たとえば誰かが問題を抱えていたら、グループ内の誰かが必ず手を差し延べてくれます。社会生活においてきちんとした価値観を持ち続けていく上で、ランニングという現象は大きな役割を担ってきたのではないでしょうか。たとえば道端にポイ捨てをするランナーはあまり見かけないでしょう? むしろランナーたちは、誰かを助けようと何かのファンドレイジングに意識的に参加するようになります。

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ランニングから得る、心の平静

ジャシエル:ランニングは、人生においてどのような学びを与えてくれたと思いますか? ランニングについて自分の限界を越えようとしてきたことは、ランニング以外のことについてもあなたの成長の糧になってきましたか? もしそうであれば、どのように?

ヘルマン: 私は裸足でのランニングを始めましたが、ちゃんとこうしよう、という意図を持って走ってましたね。また、わたしは他の人のことをきちんとレスペクトすること、物事について誠実でいること、正直な心を持つことの大切さを父親から学びましがた、ランニングを通してそういったことがさらに身についたと思います。それから、自分がどこから来て、どこに向かっているのかということにも意識を向けるようになりましたね。あとは、家族との時間を楽しむようになって、物質的なことにはこだわらなくなりました。ランニングは私にすべてをくれたと思っています。友達、健康、そして心の平静もね。

ビッグ・アップル

ジャシエル:NYCには多様な人々がいて、 ニューヨーク・シティー・マラソンがある日にはみんながひとつになります。スポーツや社会課題への貢献を評価して、何年か前にスペイン国王がニューヨーク・シティー・マラソンを表彰しましたよね。その時、NYRR(ニューヨーク・ロードランナーズ)は、NYCのランニングコミュニティにおいて大使のような存在であるあなたを大会を代表する顔として選びました。世界的なトレンドであるランニング大会をNYCからも一層盛り上げて、たくさんの人が集まってより良い社会変化を起こしていくために、どんなことが何ができると思いますか?

ヘルマン: とても重要なトピックですよね。ボードメンバーの一員なのであまり色々なことは口にはしませんが、ニューヨーク・シティー・マラソンはモデルケースになると思っています。人道的努力にも金銭面にも賢く力を入れていますし、マーケティングもよくできています。収益はコミュニティやニューヨークの街をサポートするプログラムに使われています。実は、マラソン大会自体はほんの一部の活動に過ぎないのです。ほかには子供や女性を支援するプログラム、大会をよりレベルアップするためにランナーを支援するプログラムがあります。マラソンのレース自体が好評で良いPRになり、マラソンやNYRRの活動を通して行われるたくさんのプロジェクトや社会貢献が行われています。それから、ヒスパニック系の国々でもランニングは大きな役割を果たして来たので、ニューヨーク・シティー・マラソンはそういった国々に向けても色々なことをやっているんですよね。

(Holistic Marathon:了)

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